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創立60周年記念北海道消費者大会

第58回北海道消費者大会 2021年9月17日

 北海道消費者協会は、創立60周年を迎えました。今年の北海道消費者大会は「60周年」を冠した記念大会となるはずでした。しかし、企画時点では新型コロナウイルスの感染状況は予断を許さず、結局、例年のような大規模な集会型は取りやめ、リモート会議形式を採り入れたウエブ型の開催としました。
 大会テーマは「SDGsと私たちにできること」。SDGs(持続可能な開発目標)というと崇高な理念に思われがちですが、実は私たちのくらしの中にいくつもその芽は散りばめられていることを実感する大会となりました。
 基調講演は、日本政府SDGs推進円卓会議の一員で、「持続可能な開発に関するグローバル・レポート」を執筆する15人の科学者の一人として国連事務総長に選出された慶應義塾大学大学院教授の蟹江憲史さんと、食品ロス削減推進法の成立に協力し、食品ロスを全国的に注目される課題に引き上げた功績で第2回食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)や令和2年度食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞を受賞した食品問題ジャーナリストの井出留美さんにお願いしました。
 パネルディスカッションでは、道内各地の消費者協会の代表が、これまでの地域の取り組みの中には、SDGsの運動に適うものが多いとして事例を発表しました。今大会で紹介され、論議されたことを「くらしの中にSDGs」を取り入れていくうえで参考にしていただければ幸いです。

目次

1.会長挨拶

北海道消費者協会 会長 畠山 京子

北海道消費者協会 会長 畠山 京子  今年の第58回北海道消費者大会は、残念ですが昨年に引き続きウエブ型の開催となりました。コロナウイルスの感染拡大防止と皆様の健康を守るため、やむを得ないと判断しました。コロナが早く収束し、皆様とまた顔を合わせて大会ができるようになることを心より願っております。

 また、北海道消費者協会は今年11月30日に創立60周年を迎えます。そのため、今消費者大会はメインテーマを「60周年記念 SDGsと私たちにできること」と致しました。
 2015年の国連総会で採択された持続可能な開発目標SDGsは世界の人々の共感を得て各国で取組が始まっています。日本でも各界各層で「自分にできること」と言う視点で取組が始まっているのを感じます。

 消費者協会は古くから、「消費者の権利」や「予防原則」を旨としながら「安全安心」、「省エネ省資源」、「消費者被害の防止」などの活動のほか、その時々の消費者問題に対応してきました。これらの中にはSDGsの17個の目標と合致するものが幾つもありますが、多くは目標12の「つくる責任 つかう責任」、持続可能な生産と消費の形態を目指すに該当します。

 各国が心を合わせ世界の課題解決に向かっている今、私たちもこれまでの活動をより深め「SDGsと私たちにできること」を考え、世界の一員として行動していきたいと思います。
 本日の大会が実りあるものになりますよう祈念して、ご挨拶と致します。

2.来賓挨拶

北海道知事 鈴木 直道 氏

北海道知事 鈴木 直道 氏  一般社団法人北海道消費者協会が創立60年の節目を迎えられ、記念大会が開催されますことを、心からお祝い申し上げます。
 また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、オンラインによる開催に向けて準備されてきた関係の皆様に、厚く御礼申し上げます。

 貴協会並びに道内各地域の消費者協会の皆様におかれましては、日頃から、本道における消費者運動の中核として、常に消費者の視点で道民の皆様のくらしを守るための活動を続けられ、消費者への意識啓発や消費者被害の防止などに多大なご尽力をいただいていることに対し、深く敬意を表します。

 新型コロナウイルス感染症の流行を背景に、社会不安に付け込んだ消費者被害事案が発生しているほか、詐欺的な定期購入商法やデジタルコンテンツに関する被害が増加しており、また、民法改正による来年4月からの成年年齢引き下げに伴い、進学や就職など生活環境が大きく変わる時期でもある18歳と19歳の年齢層における消費者被害の拡大と深刻化も懸念されるなど、消費生活に関する問題が複雑化・多様化する中で、消費者への啓発や被害救済の取組は一層重要となっています。

 道としては、新型コロナウイルス感染症に関連する情報を含め、消費生活上の問題に関する様々な情報を道民の皆様に適時適切に提供するとともに、昨年4月に策定した「第3次北海道消費生活基本計画」に基づき、高齢者の消費者被害防止や若年者への消費者教育、さらには、SDGsの達成に向けた取組の推進による、誰一人取り残されることのない持続可能な社会、消費者市民社会の実現など、消費者の視点に立った施策に取り組んでまいりますので、引き続きご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

 結びに、一般社団法人北海道消費者協会が、創立60周年を契機として、各地域の消費者協会とともに、道民の皆様の消費生活の安定向上を一層図られ、ますますご発展されることを祈念し、お祝いのことばといたします。

北海道議会議長 小畑 保則 氏

北海道議会議長 小畑 保則 氏  北海道消費者協会創立60周年、おめでとうございます。
 また、北海道消費者大会が回を重ね、58回目を迎えられますことを、心からお祝い申し上げます。
 畠山会長はじめ、協会の皆様におかれましては、日ごろから、消費生活に関する普及啓発や相談業務などを通じ、道民生活の向上と消費者トラブルの解決に尽力されていることに対し、深く敬意を表します。

 さて、昨今は、架空請求やインターネットを利用した定期購入商法などの特殊詐欺の巧妙化が進むとともに、新型コロナウイルス感染症に乗じた商品販売やワクチン接種の予約代行に関する金銭・個人情報等に係る相談が発生するなど、消費生活を取り巻く課題は複雑化・多様化しております。

 更に、来年4月から民法改正による成年年齢が20歳から18歳へ引き下がるところであり、貴協会が、若年者や高齢者等の消費者被害の防止をはじめ、安心・安全な消費者生活の向上のために果たされる役割は、ますます重要になると考えております。

 道議会といたしましても、国や道はもとより、北海道消費者協会をはじめとする協会の皆様とより密接な連携を図りながら、道民の皆様が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けて、最善の努力を重ねて参りたいと考えておりますので、皆様におかれましても、引き続きご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

 今大会において、SDGsに関する基調講演やパネリストの皆さんの活発な意見交換が行われ、「持続可能な生産消費形態の確保」のために、食品ロスの削減や環境に配慮した商品の選択など、社会や環境を意識した消費活動の実践に向けたより大きなステップとなるよう、ご期待申し上げますとともに、北海道消費者協会と各地域の消費者協会の益々のご発展と、ご参会の皆様のご健勝、ご活躍を心から祈念いたします。

3.基調講演1「くらしの中にもSDGs」

講師のご紹介

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 蟹江 憲史 氏  慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
 蟹江 憲史 氏

 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)非常勤教授などを兼任。
 北九州市立大学講師、助教授、東京工業大学大学院准教授を経て現職。日本政府SDGs推進円卓会議構成員、内閣府地方創生推進事務局自治体SDGs推進のための有識者会議委員など、国際的、国内的にSDGsや環境問題を中心に多方面で活躍中。Earth Commission委員を務め、また2023年Global Sustainable Development Report執筆の15人の独立科学者の一人に国連事務総長から選出されている。
 専門は国際関係論、サステナビリティ学、地球システム・ガバナンス。
 主な近著に「SDGs(持続可能な開発目標)」(中央公論新社、2020)、Governing through Goals: Sustainable Development Goals as Governance Innovation (MIT Press、 2017、共編著)などがある。博士(政策・メディア)。

基調講演動画

①SDGsの特徴(13分01秒)

②SDGsの課題とまちづくり(17分02秒)

③SDGsの意義とデジタル活用(17分17秒)

①SDGsの特徴
 SDGsは、2030年に向けた世界の目標であり、17の目標と169の具体的なターゲットが並んでいます。目標はどれもシンプルで、「だれ一人取り残されない」というのが大事な理念です。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」など当たり前のことですが、それができていないのが世界の問題です。実現するには大きな変革が必要です。国連で決議された2030アジェンダのタイトルは「我々の世界を変革する」、つまり大きく変える、英語で言えば「トランスフォーメーション(変革)」、全く変えなければ、こうした目標は達成できない、という意味です。

このままでは地球がもたない
 消費者にとっては目標12「つくる責任 つかう責任」が重要です。持続可能な消費と生産を行う、消費者が変わることで生産が変わるという面があります。「質の高い教育をみんなに」を掲げる目標4も大事です。気候変動対策はできるだけエネルギーを抑え、自然エネルギーを構築していく。すべての目標がお互いに関連しているので、すべての目標をやっていくのが大事です。
 経済、社会、環境の各分野がSDGsに含まれますが、すべてバランス良く実現していくことが求められます。経済ならお金、社会は人と人との関係、環境は地球であり、この三つをしっかり考えながら行動していくこと。環境に関しては気候変動が注目されますが、それだけでなく、人と生態系の距離をどうしたらいいのかということは、実は新型コロナのパンデミックの大きな原因にもなっています。人が生態系に近づきすぎて、もともと野生生物がもっていた感染症が人にもうつるようになりました。野生生物の数が少なくなり、ウイルスが野生生物の間で生きていけなくなる。人にうつるようになり、グローバル化で一気に広がってしまう。局所的に抑えられていたパンデミックが一気に世界に広がり、抑えにくくなっています。環境を考えることは健康を考えることにつながっていく時代に入ったのです。
 大事なのは経済活動です。第二次世界大戦が終わり、急速に復興し、豊かな生活になった一方、地球システムに大きな影響を及ぼすようになりました。人口は増え、これまでの消費・生産パターンでは地球がもたない。生き方、経済のあり方を含め、大きく変えていかないと地球に人類が住んでいくことができなくなります。SDGsのカラフルなアイコンだけ見ると、楽しく取り組めると思われがちですが、こうした危機感も知っておいてほしい。それでトランスフォーメーションとタイトルがついています。SDGsの四つの特徴の第1が、この「変革」です。

進捗を「はかる」ことが重要
 第2の特徴は、「目標から始まる目標ベースのガバナンス(管理)」であること。新たなグローバルガバナンスはこれまでになかったこと。これほど大規模、包括的に大きな目標を掲げることは人類がこれまでやったことがなく、これからのチャレンジにかかっています。目標を掲げることは普段の生活でもやっています。しかし、社会が大きな目標を掲げることはなかった。目標達成の時点から考えて今何をすべきかを考えるのがSDGsです。実施の責任は各国にあり、国連はルールを定めていません。
 第3の特徴は「測る」ということ。SDGsは自由にできますが、進捗状況を測り、どこまで進んだか評価することが重要です。デジタル化により、さまざまなことが測れるようになっています。デジタル・トランスフォーメーション(DX)と、持続可能性を探るサスティナブル・トランスフォーメーション(SX)は親和性が高いと考えます。
 最後の特徴は、SDGsは総合的目標であり、活動・行動を開始すると17の目標全体が不可分であること。どれができて、どれができていないかではなく、すべてを一体としてやっていく必要があります。例えば、夏は猛暑が続いていますが、暑いから冷房をつけると、エネルギーがどこからきているか、日本は石炭火力で多くの電力をつくり、冷房をつけることになります。今の健康は守れても気候変動に加担することになります。
 日本ではプラスチックをたくさん使っており、廃棄した際にも気候変動に加担してしまいます。これを変えなければならない。電力を自然エネルギーに代えたり、リサイクルをしっかりやって同じ物をまた使えるようにしたりすることで地球への打撃を少なくしていく。将来への負担を少なくしていく視点で取り組むことが必要です。

②SDGsの課題とまちづくり
コロナで壊れた仕組みの再生
 2019年に国連でサミットが開かれ、直後の2020年に新型コロナのパンデミックが起きました。SDGsの達成が厳しくなっています。特に貧困層にはコロナ禍の影響は厳しく出ています。ただ、コロナでいろんなものが壊れたので、再生していくときに新たな仕組みをつくりやすいと思います。復興に向けて少しでもコロナ禍の影響を前向きにとらえて取り組んでいく必要があるでしょう。
 SDGsが直面する課題として、社会の仕組みを大きく変える必要があります。消費者一人ひとりが手がけていく必要がありますが、どこかで個人ではどうにもできない場面に直面するでしょう。例えば、食品ロスも衣服のリサイクルも限界があり、仕組みとして変えていく必要があります。消費者の意識を変えていくのはすごく大事です。SDGsは民主主義を実現していくための良いツールになると思います。日本では、政治は遠い世界と思う人が多いですが、身近な問題を変えるきっかけになると思います。
 国連が出した「GSDR2019」は、SDGsの進捗を評価し報告するものです。2023年版では私も執筆者の1人となり、今の議論ではコ・ベネフィット、何かをやったときに他の目標にも便益がでるようなコ・ベネフィットを最大化していくこと。合わせてトレードオフ、つまりクーラーと火力発電のような、何かをやれば何かがだめになるということを特定し、なくしていくことです。2019年版報告書にも書かれており、今はその事例を集めているところです。

SDGs評価、日本は18位
 日本のSDGsへの対策は世界でどのくらいの位置かというと、SDSNというグローバルな研究ネットワークが評価では世界18位で、少しずつ順位が下がっています。一方で日本の経済力は世界第3位。経済、社会、環境の三つの中で経済は3番目なのに、社会、環境が入った途端に18位ということは、この二つの要素が世界的に遅れているということ。典型的なのはジェンダーの問題。女性の社会的進出を実現していくことですが、日本での男性と女性の格差は世界でも最下位レベル。本当に変えていくには、ジェンダーが大事だと声かけしてるだけではなく、例えば保育園をどうしていくのか、働き方をどうしていくのかということを一緒に考えないといけない。
 経済界でもSDGsへの評価が注目され、企業を外から評価していくことが進んでいます。金融界でもポジティブインパクト金融原則(国連環境計画)に環境、経済、社会の三つのバランスを大事にしようと書かれています。お金を通じて流れを変えていくという考えができつつあります。
 では、評価をされる企業はどうすれば良いか。慶応大学の研究所「X.SDG Lab」で2年ほどかけて企業のためのSDGs行動リストを作りました。例えばターゲット4.2「すべての子どもに初等教育を受ける準備を」であれば、初等教育と企業行動はなじみがなさそうですが、保育や就学前学習に支援できることはたくさんあります。テレワークや裁量労働制を導入したり、保育園の費用を援助したり、社内保育園をつくる、サポートする人材を育てるなど。インフラも車で運んでいたものを貨物列車で運んだり、通勤形態を変えたり。会社の車をEVにすることも考えられます。できる企業行動はあるので、企業にもそういったことを考えてもらいたい。

「未来都市」に道、札幌、ニセコ、下川
 SDGsのローカル化では、北海道、札幌市、ニセコ町、下川町は「SDGs未来都市」に選定されています。特徴に応じた持続可能なまちづくりの事例が集まり、下川町は先進的な取り組みで表彰も受けています。まちの生活に落とし込み、下川版SDGsを作っています。作るプロセスも住民中心で、そこも大事な点です。SDGsは遠い世界のことに思われがちですが、実は身近なものであり、政策体系に落とし込んでいけるものです。
 川崎市のバスケチームは、スポーツを通じてSDGsを実現する活動をしています。ファンの数は多く、影響力も大きい。例えば、家で使い古した食用油を集めると2日間で88人から36リットルを回収し、バスを走らせました。走っているバスが見えるので、こうした活動をやっていくことでもっと消費に近づいた活動ができるようになるでしょう。車いすチームと交流したり、地元の学生が入場曲を生演奏して交流したり、障がい者の描くデザインを採用したり、雇用したりといった、できることがたくさんあります。
 地方でも金融を通じて地方活性化しようという動きが強まっています。「地方創生SDGs金融フレームワーク」というものです。地域の事業者、特に中小企業が多いと思いますが、そうした人たちがやっていることは非常にサスティナブルなことが多い。それをうまくSDGsに紐付け、主に自治体が「この人たちはSDGsに向かって行動してますよ」と位置づけ、その企業を地域の金融機関が応援するという枠組みです。例えば、静岡市では、地元信金が特別な定期預金を設け、預金額の0.01%を宣言した団体・企業に寄付します。こうやってお金を通じて支援していきます。

③SDGsの意義とデジタル活用
企業理念、多くはSDGs的
 他の人たちが何をしているか知りたい時や、どこかと協働してやっていきたい時は、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」があります。会員数(21年5月現在5423会員)も増えています。どんないい事例があるのか知ったり、同じ関心があるところは分科会をつくったりもしています。こうした場を活用してSDGsの取り組みを相互に学びながら進めてもらいたいですね。
 企業によるSDGsの取り組みは進んできていますが、中小企業、大企業いずれも経営理念まで戻ると、実はかなりSDGs的なことを言っていることが多い。金儲けのために会社をつくったところは多くなく、社業を通じて社会に貢献しようということを経営理念にしているところが大半です。伊藤忠商事は「三方よし」が企業理念です。それをSDGsという共通言語に落とすことで、会社に入ってきた人も何を目指しているのか分かりやすく、取引もしやすくなります。
 例えば、マニフレックスというマットレスの会社は、持続可能な消費と生産に取り組んでいます。消費者として気持ちいいマットレスを長く使うことはできますが、大きなマットレスを大量に運ぶと輸送に二酸化炭素を大量排出します。そこで、マットレスを8分の1に圧縮して運ぶことで配送時の二酸化炭素も圧縮しています。梱包材もプラスチックや金属を使わず、廃棄しやすくしています。
 意図するしないに関わらず、例えばポイ捨てされたマスクは川を経て海に流れ、マイクロプラスチックとなり、魚が食べ、人間の健康にも影響が出てきます。2050年には魚の量よりマイクロプラスチックの量が多くなるという懸念さえあります。そうしたことを起こさないためにもプラスチックを出さない、リサイクルする、廃棄する時もプラスチックを出さないことで環境への負担を少なくすることを考えているのが、このマットレス会社です。

消費者が変われば生産者も変わる
 企業の中には、中長期計画にSDGsを盛り込んだり、技術革新(イノベーション)の一環として取り組んだり、だれ一人取り残さないということで障害者雇用に取り組んだりする企業があります。ファッション業界でもサスティナブルな取り組みが重視されています。ファッションモデルの冨永愛さんがエシカルライフスタイルSDGsアンバサダーになり、東京ガールズコレクションのファッションショーがSDGsを目指し衣替えしました。
 衣服を生産することは、素材をどうするか、化学繊維かオーガニックか、それによって二酸化炭素の排出が、作るときも廃棄のときも違ってきます。どこで作るかによって移動コスト、労働力も変わります。販売は、需要が増えれば伸びますが、そのままいくと大量廃棄してしまう。経済成長につながるとしても、気候変動や資源に影響が出てしまう。どうパターンを変えていくか大事になります。作る段階で人権や女性の労働がどうなっているのか、見えにくいことですが、先進国の企業がやるのであればそこまで、しっかり管理していく必要があります。
 全体を変えていくにはSDGsの視点が必要になってきます。目標12「つくる責任 つかう責任」は、どこで何を作るのか、消費していくのかも大事なことです。地元で生産・消費する地産地消であれば、物流で排出するガスの量は減ります。生産現場で何が行われているのかも見える化しやすくなります。多様性のある雇用をしてるのかということも大事になってきます。素材をどうするのかということではプラスチックの問題につながります。そういうことをやりながら働きがいも、経済成長もしていくという視点が大事です。
 鍵となる視点は、目標を達成した時点からバックキャスト、つまり将来から今を振り返って見ること。例えば、男女の雇用が平等になっている状態です。逆算して見ると、今はバランスがよくないことが分かり、もっと女性を増やせばいいとなります。
 未来の、SDGsが達成できている視点から今のできていない現状を見ると、違った角度で見ることができます。消費と生産では、ライフサイクルを通じて持続性(サスティナビリティ)を考えるということ。原料の調達、物流、加工、生産、使用、廃棄という中で、消費者は使用だけを考えがちですが、どう廃棄されるのか、そこからさかのぼって原材料はどうか、そこまで物のストーリーを考えて消費をしていくことが大事です。そのためには総合的な視点が必要で、その視点を提供してくれるのが17の目標と169のターゲットと言えます。やり方は、さまざま工夫しながら進めることができます。消費者の意識が変わると生産者の意識も変わるでしょう。

鍵はデジタル技術の活用
 最後に、私も何ができるか考え、数年前、家を建てることにしました。同僚に話したら、建築家と一緒に作ったらどうか、SDGsの家を作ったらどうか、となりました。家はいろんな要素があり、リサイクルタイルを使ったり、街と家の在り方を考えたりしてみました。それが目標11「住み続けられるまちづくりを」に通じます。
 災害のとき何をするか考えると、災害時にも使えるトイレが必要になります。子ども部屋は、うちはまだ小さいので、後から作るとコストを抑えられます。木をふんだんに使うことで、サスティナブルな作りができ、森を育てることにつながります。身近なことを見つけてSDGsへの対応を進めてみましょう。
 これまで経済一辺倒で進んできたことが、コロナによって経済バランスがあっさり崩れることが分かりました。経済は、人と人との距離、環境をしっかり考えないと崩れてしまいます。気候変動の影響により台風が頻繁にくると、経済は回らなくなります。経済のためにも環境と社会をしっかりしていくことが大事だということがあらためて分かったのです。経済の立て直しのためにもSDGsに向かって進んでいくことです。
 先ほどの「X.SDG Lab」は、コロナの経験を踏まえ、SDGs達成への鍵となる12の方策を企業パートナーと考え、公表しました。重要な鍵はデジタル技術の活用です。新たなデジタル技術となれば、活用できる人とできない人の格差が出てしまうので、配慮しながらいかに活用していくか。それがテレワークなどの多様な働き方にもつながっていくでしょう。それがまちづくりにつながり、ビジネスチャンスにつながっていく。東京で働いていた友人が、テレワークになって息子のいる佐賀県に拠点を移しました。その方が豊かな生活ができることが分かったと言います。そういう人が増えるとまちづくりや経済のあり方も変わっていくでしょう。

コロナからの変革はラストチャンス
 コロナからの変革は、実はSDGs達成のラストチャンスだと思います。これだけ大きくものが変わるチャンスでSDGs達成への変革ができないと、SDGsは無理だと思います。そういう意味でも今が大事なとき。SDGsの課題は長期的でもあり、将来に先送りしようと思えばできるかもしれません。しかし、先送りした結果がコロナのような事態を招いているということも事実です。先送りせず、課題を直視し、解決していく必要があります。
 SDGsは2030年に向けた目標ですが、到達したらこうなるということが書かれています。その先にいくとこのSDGsは常識となり、いろんな活動が進んでいくということが言えます。目標ということは、そこに答えが書かれているということ。どうやってたどり着くかが一人ひとりに投げかけられています。ぜひ足下を見ながら、目標をどう達成するのか、17の目標を一体として考え、議論し、必要に応じてパートナーシップを組みながら実現に向けて進んでいただければと思います。

4.基調講演2「世界の食料問題と食品ロス削減」

講師のご紹介

食品問題ジャーナリスト 井出 留美 氏  食品問題ジャーナリスト
 井出 留美 氏

 ジャーナリスト。奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力。近著『捨てないパン屋の挑戦』『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得!』、監修書『食品ロスの大研究』他。食品ロスを全国的に注目されるレベルに引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/令和二年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。「メディアが報じない世界の食品ロス情報 SDGss世界最新レポート」連載中。

基調講演動画

①食品ロスの基礎知識(17分07秒)

②世界の食料問題(16分28秒)

③食品ロスを減らすには(28分22秒)

①食品ロスの基本知識
 食品メーカーに長く勤めていましたが、3月11日の誕生日に東日本大震災が発生し、その際に大量の食品廃棄物を見て、この仕事を始めました。食品メーカーのあと、フードバンクに3年勤め、その後独立して食品ロスの啓発活動を行っています。
 本日は世界の食料問題と食品ロスについて話をします。最初の動画はSDGsの世界ランキングで1位になったデンマークの様子です。平日の昼間で男性と子どもという組み合わせがよく見られますが、デンマークでは「ヒュッゲ」という考え方があり、これは居心地がいい雰囲気、時間、空間という意味です。仕事だけじゃなく、家族と過ごす時間や趣味の時間といったものを大切にして、SDGsでも世界ランク1位の国になっています。

パンを1個も捨てないパン屋さん
 ヨーロッパでは環境先進国が多く、ここから学んで働き方を変えた人がいます。広島のブーランジェリー・ドリアンというパン屋さんです。かつてはパンを40種類以上つくって、従業員もたくさんいて、でも赤字で、毎日ごみ袋いっぱいのパンを捨てていました。写真の田村陽至さんの代になって、2つの経験から変えたことがあります。一つはモンゴルで羊の解体をやって、食べることは生き物の命をいただくことだと学んだこと。もう一つはヨーロッパでのパン作りの修行です。
 ヨーロッパでは、長時間働くことが必ずしも美徳とはされていません。選び抜いた食材で、パンもおいしく、1個も捨てない。田村さんは帰国してからやり方を変えました。種類を日持ちしやすい4種類にし、従業員も2人になり、良い原材料を使って上手に手を抜いて、休みを増やし、パン屋さんも幸せを感じられる働きにしました。売り上げは以前と同じような状態を保って、2015年の秋からパンを一個も捨てていません。
 田村さんをみると、食品ロスを減らすのは無駄減らしではなく、人の働き方を変えることであり、生き方を変えることにつながります。

家庭の食品廃棄、全国で11兆円
 本日は3部構成で話をします。第1部は食品ロスの基本知識、第2部は世界の食料問題、第3部は食品ロスを減らすにはについて話します。
 先ず第1部の食品ロスの基礎知識です。
 食品ロスとは、まだ食べられるにもかかわらず、捨てられてしまう食べ物のことを指します。国連食糧農業機関(FAO)の定義によれば、フードサプライチェーンの前半で捨てられるのがフードロス、後半で捨てられるものがフードウェイストと言います。農場から流通の過程で発生する食品の廃棄がフードロス。小売と外食、家庭で発生するものがフードウェイストです。日本はこの二つをさして食品ロスと呼んでいますが英語では、フードロス・アンド・ウェイストと言います。最近、食品ロスのことを指してフードロスという言い回しを聞きますが、英語圏の人からするとフードロスの部分しか指さず、家庭などから発生する分は含まないので、注意が必要です。私は日本語では食品ロスと呼んでいます。
 次の写真は、NHKから依頼を受けて同行したときのものです。東京23区内の家庭ゴミが集まる収集現場です。番組のために、ゴミの中からまだ食べられる食品、消費期限前、賞味期限前のものを抽出しました。一番衝撃的だったのが、この青く囲んでいる有名和菓子店の高級ようかんです。値段は5250円、賞味期限が5カ月も残っていました。これは家庭からの食品ロスです。私たちは1年間に1世帯からいくらくらいの食品を捨てていると思いますか? 京都市が調べたところ、1世帯1年間で6万1000円分の食べ物を捨てていました。捨てるのにかかるコストが4000円で、合わせると6万5000円。全国に換算すると11.1兆円の経済的損失になります。

リサイクル率はOECDで最下位
 2020年10月にノーベル平和賞を受賞した国連世界食糧計画(WFP)という団体があります。世界で食べ物を必要としている人々に食料を支援しています。1年間に支援した食料は420万トン。かたや日本では1年間の食品ロスは600万トン、世界の食糧援助量の1.4倍もの食料を捨てています。日本の最新の食糧自給率は、37%。遠くの国から沢山のお金とエネルギーを使って食料を輸入しておきながら、こんなにも捨ててしまっている。
 消費者はあまり捨てていないんじゃないかという人がいます。企業がたくさん捨てているんじゃないかと。でも、1年間の食品ロス600万トンの内訳をみると、家庭から46%、半分近く出ている。企業からは54%ですが、消費者が行動したことで生まれたものも含まれています。例えば食料品の買い物に行ったら、少しでも日持ちするものを奥から取っていませんか。もし手前の食品が余ったら私たちの税金を使って焼却処分されてしまう。
 食べ物のごみは大きく分けて2種類あります。食品メーカーから出たものの多くはリサイクルされますが、残りは産業廃棄物として処分されます。コンビニや百貨店で売れ残った食べ物のほとんどがリサイクルされず、半分以上が事業系一般廃棄物として多くの自治体が家庭ごみと一緒に税金で焼却処分されます。自治体によってコストは違いますが、東京都世田谷区では、1キロあたり59円もかかります。例えば牛乳1リットルパックは1キロくらいなので59円もかかる。
 環境省は毎年3月末に一般ごみの処理にかかった費用を発表しています。2021年3月に発表された金額は1年間に2兆円以上かかっています。食品リサイクルをしている日本フードエコロジーセンターの高橋巧一社長は、この2兆円のうちの40〜50%が食べ物じゃないかと言っています。なぜなら生ごみの重量のうちの80%以上が水分で燃えにくい。だから焼却にはエネルギーやコストを多大に使う。OECD(経済協力開発機構)加盟国でごみをどのくらいの割合で燃やしているのかを示したグラフがあります。日本の焼却率はダントツに高くほぼ80%を燃やしています。日本は国土面積が小さく、衛生上の問題から、と言われていますが、日本より小さい国でも生ごみを燃やさず資源化しているところもあります。
 SDGsは、環境負荷をできるだけ減らし持続可能性を保つことが目標なので焼却割合を減らしていく必要があります。日本はリサイクルしていると言われますが、OECD加盟国の中でリサイクル率をみると、最下位で非常に低い。隣の韓国は非常に高い。なぜこんなにも日本はリサイクル率が低いのか。生ごみを燃やすごみとして燃やしてしまっていることがこの数字に出ています。逆に生ごみを資源化する、北海道では自治体によっては資源化していると思いますが、そうすればこの数字は上がっていきます。

温室効果ガス削減にも効果的
 今、気候危機が百年に一度とか千年に一度とかの割合で起きています。2021年3月にはオーストラリアで百年に一度の気候危機が起きているし、アメリカでは千年に一度の山火事、6月にはカナダで最高気温が50度近くまで上がりました。ドイツでは大洪水、中国では千年に一度の大雨。異常気象は非常事態のはずですが、常態化している。日常的に起こってしまっている。ここで強調したいのは、気候危機はなぜ起きるのか。二酸化炭素を出すのもそうですが、食品ロスがこの一因になっています。これはまだまだ知られていないことです。
 どの国が温室効果ガスをたくさん出しているかのグラフがあります。一番出しているのが中国、二番目がアメリカで、3番目がインド、4番目がロシア。グラフにはありませんが、日本が5位。そして世界中の食品ロスを一つの国から出たと仮定すると世界第3位に相当します。食品ロスがそこまで影響することはあまり知られていない。どこから温室効果ガスが排出されているかというと、オランダの世界資源研究所によれば、飛行機が1.4%で、食品ロスは8〜10%。自動車の10%に匹敵するくらい食品ロスは環境負荷に大きな影響を与えています。
 食品サプライチェーンから出る温室効果ガスでは、牛肉が突出している。ラム・マトン、チーズと続く。植物性の食品と比べると畜産から出る温室効果ガスがとても大きいことが分かります。
 増え続ける温室効果ガスの排出量が減少し始めるときを「ドローダウン」と言い、「地球温暖化を逆転させる100の方法」では、二酸化炭素がどれくらい削減できるか、費用対効果などが並び、第3位に食品ロスがきています。一般消費者が参加しやすい食品ロスを減らすことが効果的なものと言われています。
 2050年までに二酸化炭素を実質ゼロにということで2020年12月に富山県で食品ロス削減全国大会が開催されました。小泉進次郎環境大臣が基調講演で、食品ロスの削減なくして、二酸化炭素の実質ゼロはありえないと話しました。食品ロスを減らすということは温室効果ガスの対策になる。パリ協定に署名した国は192カ国ありますが、食品ロスを対策として盛り込んだのはわずか11カ国にすぎず、食品ロスの削減が温室効果ガスを減らすということが認知されていないので、ぜひ知らせてほしい。

②世界の食料問題
飢餓を映す「ハンガーマップ」ライブ
 次に第2部で世界の食糧問題について話します。
 「食品ロスは減らしても他の遠い国にあげられないから無駄じゃないか」という意見を聞きます。でも、地球上でいろんな国から日本は食料を輸入しており、食品は世界の農業システムとつながっています。コロナ禍でいろんな食品にパニック買いが起きました。そういったことは直ぐ他の国に影響がおきる。世界のある国で起きたことが何千キロと離れたところの土地の開拓を促している。例えば日本に食品を送るために、中南米とか東南アジアの熱帯雨林が焼き払われたりとか、そこで野生動物が死んだりとか、いろんなことが起きています。そうやって食べ物を輸入しておきながら、たくさん捨てていたら、どうでしょうか。世界の食料生産のうちの3分の1が食品ロスとして捨てられています。
 WFPの試算では、急性の飢餓人口は2020年に1億5500万人、コロナ禍でさらに増え、2021年には2億7200万人になりました。2021年8月8日時点では十分に食料を確保できない人は9億3000万人もいます。これはWFPの「ハンガーマップ」に表示され、地球上のどの国でどれくらい飢餓の人がいるかをライブ画面でみることができます。日本でも2020年2月末に政府から休校要請があり、学校給食が止まりました。同年4月ごろには、世界で3億6900万人の子が給食を食べられなくなりました。これもWFPのライブ画面で、いま地球上でどの国で何人くらいの子が給食を食べられなくなっているのか、ライブで見ることができます。一時期、1億人台まで下がりましたが、また2億人台まで増え、深刻な状況です。

畑の廃棄物を含めると25億トン
 コロナ禍のアメリカで起きたことを表す2枚の写真があります。左側が畑に捨てられたタマネギ。飲食店の店内営業がストップし、農産物が行き場を失いました。生乳も行き場を失い、流されました。かたや右側の写真はテキサスで、食べ物を必要とする人がフードバンクに向かう車の行列で1万台も並びました。人生で初めてフードバンクに食料を求めたという人もいたほど。一方で食べ物が行き場を失って捨てられ、他方では食べ物を求めてたくさんの人の行列ができた。これと同じようなことが日本でも起きました。岡山県では1000万円くらいのタマネギが畑に捨てられ、日本のフードバンクもコロナ前に比べて10倍以上も人数が増えています。
 バナナは今では安価に手に入ります。世界で年間1500億本くらい流通していますが、そのうち半分に当たる750億本が捨てられていると言われます。バナナは熟すと茶色い斑点が出てきます。甘さが出て栄養価も高くなりますが、多くの消費者は安くなっても買わない。
 世界の食品ロスは、生産量の3分の1にあたる13億トンと話しましたが、2021年7月に世界自然保護基金(WWF)とイギリスのスーパー、テスコが出した共同リポートによれば、食品ロスはもっとあり、全世界で実は25億トンも出ていると。農場から発生している食品ロスが見過ごされている可能性がありました。今までもカウントはされていたが、全部ではなかった。全部を数えると25億トンになると。農場から発生するロスは削減目標が決められていません。SDGsではゴールが17個あり、そのうち食品ロスに一番関係があるのが12番。細かいターゲットでは12.3に数値が書かれています。2030年までに小売と消費レベルで世界の食糧廃棄を半減させると書かれている。しかし、収穫後損失を含む農場の食品ロスには数値目標は決まっていません。日本の食品ロスは600万トンと言われていますが、実は畑から出ているロスは含まれません。例えばレタスやキャベツができすぎると潰すことがありますが、それは生産調整ということで食品ロスに入らない。果物を大きく実らせるために他の実を落とす摘果は入っていない。これからはこれらを含めた数値目標を定めていく必要があります。

いくつの学校や病院、道路が
 農業や食料生産には飲み水の500倍の水を使っています。チーズバーガー1個を作るのに必要な水は3000リットル、家のお風呂15杯の水になります。特に牛肉でたくさん使われています。日本のハンバーガーは、安いものから高いものまでたくさんありますが、安いものの多くは海外から原材料を輸入しています。海外で多くの水を使っていることになり、3000リットルの水を使った小麦や牛肉が輸入されてきます。間接的に水を輸入していることになり、これを仮想水とか、バーチャルウォーターと言います。つまり、ほかの国の水を奪っているわけです。日本は水が潤沢にありますが、こうやって輸入することで他の国の水などを奪っています。ハンバーガー1個を捨てたら、家のお風呂の水15杯分を捨てることになるのです。
 食料と農業が環境に与える影響では、二酸化炭素排出量では26%、土地利用ではほぼ半分くらい、水使用量は70%、水質汚染に関しては78%。生物多様性では、種が減ってきており、数十万種ある食用植物と家畜の中で、12種類の食用植物と5種類の家畜が75%を占めます。熱帯雨林を焼き払って野生動物が死に生物の種がどんどん少なくなってきています。
 2020年12月に「食料危機」という本を執筆し、FAO日本事務所長にインタビューしました。世界の食品ロスの経済的損失は2.6兆ドル、日本円で260兆円に上ります。所長は、これだけのお金があればいくつ学校や病院、道路がつくれか、学校にお金がなくて行けない子が何人奨学金を受けられたか、病院に行けない人が何人診察を受けられたか、雇用もどれだけ生み出せたかと話していました。食品ロスは、単に食べ物をロスするのではなく、お金や環境の保全性、雇用や教育、福祉、医療の機会を奪ってしまっている。すごく大きな問題です。
 環境の3R、環境配慮の原則ですが、全て頭文字にRがついています。最優先はリデュース。ロスを出さない、ゴミを出さないということ。次にリユース、再利用です。食べ物ならフードバンクやフードドライブに寄付する。それでもだめなら、飲食店の食べ物ならリサイクル。東京五輪で残念ながら13万食の弁当が廃棄されました。組織委員会はリサイクルしたと言っていますが、3Rの原則からいうとこれは理解されない。まず無観客になった時点で弁当の必要数が激減しているのに数を調整していなかった。それでも余ったら食べ物を必要としている人に食べてもらう。それでも残った食べ残しは肥料に使うというのが順番です。食べられる弁当をいきなりリサイクルというのは本当に無駄です。

元栓を閉めた方が早道じゃないか
 京都大学で家庭の食品ロスを研究してきた高月紘先生が環境のマンガを描いています。水道の蛇口から水がジャーッと出ている。資源もバーッと垂れ流し人々が小さなバケツですくってリサイクルをしていますが、「元栓を閉めた方が早道じゃないのか」と問いかけます。3Rのリデュース。使い切れないくらい食料を作りすぎている。私たちも買いすぎている。適度に作って適度に売って、消費者も適量を買うのが環境負荷をかけない、お金の無駄を防げるのです。
 「バイオマスの5F」があります。食料(フード)、繊維(ファイバー)、飼料(フィード)、堆肥(フェルライザー)、バイオ燃料(フエル)。これも付加価値の高い順番から使うべきです。アメリカで2007〜08年にかけてトウモロコシやサトウキビを栽培してバイオ燃料にしていた時期がありました。食べるためのトウモロコシが減り、値段が何倍にもなり、経済的に困っている人が食べられなくなるという食糧危機が起きました。ヨーロッパでは、食べられない部分をバイオ燃料にします。食べ物として作ったものは食料として使い、次に繊維、飼料、堆肥、バイオ燃料とするのです。

③食品ロスを減らすには
すぐに食べるなら「てまえどり」
 第3部は、食品ロスを減らすには具体的にどういうことをすればよいかということ。
 食品業界には、一般には知られていませんが、見直す必要がある商慣習があります。欠品は許されていませんが、あるスーパーはメーカーに欠品を許容しています。加工食品だけじゃなく、生鮮食品でもしけで魚がとれない時は冷凍魚を使うかもしれない。このスーパーの社長は、数合わせで仕入れると、古くて高くてまずいものを買わせることになる。自分がおいしいと思うものを買ってもらいたいと思い、無理な数合わせはしないという。だから欠品しても地域ではシェア15〜20%を誇る人気店になっています。欠品を許さないスーパー、コンビニは、欠品したメーカーに補償金を求めることをしています。欠品すると客に迷惑をかけるとメーカーは言いますが決してそうではありません。コロナ禍で日用品が手に入らないと店員に怒る消費者もいましたが、ないものはないのです。消費者としても許容する姿勢が必要です。
 スーパーで牛乳を奥からとる人をよく見かけます。アンケートでも88%が奥から食品を取ったことがあると回答しています。結局、目の前の食品は税金を使って焼却することになります。これは食品ロス削減推進法にも書かれているし、兵庫県の自治体でもキャンペーンをやっています。すぐに食べるなら「てまえどり」。大手コンビニも商品棚に「てまえどり」と掲示しています。デンマークでは、1リットルの牛乳パックの1面を使って賞味期限と消費期限の違いを明記し、この5年間で食品ロスを25%も減らしました。
 賞味期限と消費期限の違いを表したグラフがあります。縦軸が品質の高さ、横軸が製造日からの日数を表しています。気をつけるのは消費期限。おおむね5日以内のものに表示されます。例えば弁当やおにぎり、総菜、サンドイッチ、調理パン、刺身、生クリームのケーキなど。安全に食べられる限界というのを超してしまうので、書いてある日にちや時間をできる限り守った方がいい。それが消費期限です。一方、加工食品の多くは賞味期限が書かれています。これは品質が切れる期限ではなく、おいしさの目安の期限です。企業はリスクを考え比較的手前に設定します。賞味期限が過ぎてもすぐに食べられなくなるわけじゃないので、家族や友人にぜひ伝えてください。

天気データで豆腐のロス30%減
 規格外の農産物を活用する動きがあります。海外ではブランド名を付けて売ったところ売り上げが前年比48%増になった例もあります。日本でも企業が規格外をお手ごろ価格で売り、消費者も積極的に買うことで食品ロスを減らすことができます。次の画像は日本で一番古いりんご園で、青森県弘前市にあるもりやま園です。果物は、実を大きくするため小さいうちに実の9割方を落とします。これを摘果と言い、リンゴだとピンポン球くらいの大きさです。もりやま園は、その摘果を使ってりんごのお酒、シードルを商品化しました。摘果した実は、ポリフェノールが多く、酸っぱいので商品化は大変でしたが、3年かけて商品化しました。生産性を上げるため全部の労働時間を測ったら75%を捨てる作業に使っていました。捨てる作業は大きく3つあり、一つは摘果、二つ目が枝の剪定、三つ目が葉取りです。日本では、りんごは真っ赤にむらなく色づいていることを重視するので、邪魔な葉を取ります。海外ではそんなことはやっていない。むしろ葉がついている方がいいという論文すらあり、もりやま園は葉取りをやめました。ニュージーランド産のブランドには、小ぶりで丸かじりしやすく、食べ切りやすい大きさで、色はむらがあるが、甘酸っぱくおいしいものがあり、輸入量が増えていると言います。
 ペットボトルのミネラルウォーターは家でも備蓄する人が多いと思います。賞味期限はキャップやボトルに書いてありますが、飲めなくなる期限ではありません。どういうことかというと、ボトルを介して水が蒸発し、ものによってはボトルがへこんだりします。でも、中の水は殺菌し、濾過しているのですぐに飲めなくなるわけではありません。日本の計量法では、表示している容量を満たしていないものは売ってはいけない。備蓄は家や企業、自治体でもやっており、すぐに飲めなくなるわけではないので捨てないでほしいですね。
 最新技術の活用では「ダイナミック・プライシング」があります。需要に合わせて値段を上げ下げするものです。消費者にとってなじみが深いのは飛行機のチケットやホテルの宿泊料でしょう。夏休みは値段が上がり、オフシーズンは下がる。これと同じようなことを食料品で、経済産業省や企業が実証実験をやっています。生鮮食品で出荷したてのものは標準価格より上げ、鮮度が落ちるのに合わせて値段も下げていく。ネットスーパーで実験し、消費者がどれを狙うかをみたところ、高くても必ず新しいものを買う消費者がいる一方で、鮮度にこだわらず値段が安い方がいいという消費者もいました。
 値段を上げ下げすることでロスを減らす取り組みもあります。食品にはバーコードがついていますが、ダイナミック・プライシングは電子タグを使い、より詳細な情報をつかみ、自動で値引きし、値引きシールをはらなくていい。商品棚であれば電光掲示板で、スマホがあればスマホでデータ管理ができます。天気情報を使うというのもあります。冷や奴は暑くなると売れますが、暑いと感じないと売れない。日本気象協会が調べたデータでは、前日との気温差が大きいほど冷や奴が売れます。これにより豆腐の生産量を増減でき、年間30%の食品ロスを削減しました。コストにすると1000万円以上。天気データは、他にも冷やし中華のたれやアイスモナカなどいろいろ使われています。ただ、天気データを活用する企業は10%にも満たず、気象データをもっと活用いただきたい。

見える化で意識も行動も変わる
 次の画像はアメリカのアピール・サイエンスというメーカーの商品です。植物から抽出した有機脂質由来の色もない、においもない、味もないという食用コーティング剤を青果物にスプレーするだけで水分の損失や酸化を防ぎ、野菜や果物の日持ちを2倍にしてくれるものです。写真のレモンは、左側がスプレーを塗布しなかったもの、右側が塗布したもので、54日経つと、こんなに違います。日本の野菜や果物の多くはプラスチックの袋に梱包されていますが、使い捨てのプラスチックはできるだけ削減し、禁止している国もあるくらい。このアピール・サイエンスは、アメリカやドイツでは市場に導入され、食品ロスを減らすこともできるし、プラごみの削減にもつながります。
 次に食品ロスの計量、見える化ということです。ホテルやレストランでは、作った料理が余ることがあり、これを計ってカメラで写真を撮り、なぜ余ったか理由を入力すると、自動でグラフ化してくれます。木曜日はこの料理があまり出ないから来週の木曜日はこの料理を減らそうと、調整できます。出所をつかむことでホテルチェーンのリッツカールトンは、食品ロスの54%を削減できました。
 日本では京都市が環境先進都市のロールモデルです。ゴミを減らす、食品ロスを減らすということで、20年かけて半分にしました。グラフの左が2000年で年間82万トンありましたが、20年かけて41万トンまで減らしました。私たち消費者にとって何がいいかというと、市の財源をごみ処理ではなく、教育や福祉、医療などに使えるようになります。京都市は2000年には、ごみの処理工場が5基あり、それを4基、3基へと減らしました。これだけでも100数十億円の削減です。消費者にもごみを何グラム減らそうではなく、プチトマト6個分減らそうなどと分かりやすく啓発していくことで、これだけのことを達成しました。
 次のデータは、徳島県の家庭で行ったものですが、右側の青いグラフは家でどんな食品を捨てたのかを測るだけで23%の食品ロスが減らしました。プラスアルファの取り組みをしたら40%近くも減りました。測ることは、事業者にとっても消費者にとっても効果的です。神戸市では1週目より2週目が減るという結果が出ています。測ることで見える化し、意識が変わり、行動が変わるという効果があります。私も生ごみを処理機にかけてビフォー、アフターを測っています。これが減らさなきゃという意識、行動につながっていくのです。

お供え物で「おてらおやつクラブ」
 次に余剰食品の活用です。貧困線以下で暮らしている日本人は2000万人います。貧困線は、日本人を年収順に並べ、中間の値のさらに半分のところです。2018年では年収127万円、月換算で10万円くらい。これよりも少ないお金で暮らしている人が日本人の6人に1人、2000万人います。当然、食品は必要です。子どもの貧困率は、日本はOECDの中でも高く、学校給食しか食べていなかった子どもは夏休みに食べるものがなくなり、夏休み明けには痩せてしまう子どももいます。私は食品メーカーのあとに行ったフードバンクで、そうした現状を目の当たりにしました。フードバンクとは、余っている食べ物を困っている人に渡す、そういう活動や活動している団体を指します。北海道でも複数あり、日本には130以上のフードバンクが活動しています。
 アメリカで1967年に始まった活動で、世界40カ国以上で活動が始まっています。ただ、フードバンクはお金や食料を蓄える倉庫が必要です。もっと手軽にできるのがフードドライブで、地域や学校、職場、家で余っているもの、例えばお中元やお歳暮でもらったけど食べない、安売りで買いすぎてしまったものを持ち寄って必要な家庭に渡す活動です。消費者協会も室蘭で2011年6月ころから実施していると聞きます。一般消費者に食品ロスや貧困の問題を知ってもらうためにも効果的で、細く長く続けていただくことが効果的です。
 次に「おてらおやつクラブ」です。お寺のお供えは余るので、奈良県の寺がそれを一人親世帯の子どもたちへ分けてあげる活動を始めました。それが全国47都道府県1647のお寺で取り組まれている。最近では子どもが喜ぶお菓子などもお供えものとしてあると言います。

選ぶことで社会を変えていく
 韓国は生ごみを従量制で回収します。1990年代は埋め立てていましたが、においやメタンガスの問題で2005年に埋め立て禁止にしました。今ではリサイクル率95%。ごみの重さに応じて料金が変わります。集めた生ごみはバイオマスや家畜のえさに使われています。日本では福岡県大木町が生ごみを液体の肥料にしており、これにより燃やすごみが劇的に減りました。地方だからできるんじゃないかという声もありますが、首都圏でも実験が始まっています。
 食べられない部分を使ってバイオマスにする取り組みです。スウェーデンのマルメ市では、バナナの皮やコーヒー豆のかすをバイオマスにして、街中をバスが走っています。2021年8月現在で、市営の交通機関、施設で使うエネルギーは100%再生可能エネルギーです。2030年には市営だけじゃなく民間も再生可能エネルギーに転換しようという取り組みです。
 最後に伝えたいことがあります。「ぜひ、覚えておいてほしいのがすべての食料品の購入が投票になるということ」。これは人類学者のジェーン・グドールさんの言葉です。「買う行為は、未来へ何を残し何を残さないかを決める投票だ」はスマイルサークルという会社の社長岩城紀子さんの言葉です。「私たちはフォークで投票することができる」は、ニューヨーク大学名誉教授のマリオン・ネスレさんの言葉です。このように買い物で投票することができます。企業しかできないことがありますが、消費者にもできることがあります。どの商品を選ぶのか、どの食べ物を選ぶのか、どの店を選ぶのか。そうすることで社会を変えていくことができる。そういうことをみなさんにお伝えしたい。

5.パネルディスカッション

 テーマ「60周年記念 SDGsと私たちにできること」

パネリストのご紹介

函館消費者協会 理事長
佐藤 秀臣 氏

函館消費者協会 理事長 佐藤 秀臣 氏

岩内消費者協会 副会長
佐藤 和加子 氏

岩内消費者協会 副会長 佐藤 和加子 氏

旭川消費者協会 会長
渡邊 眞知子 氏

旭川消費者協会 会長 渡邊 眞知子 氏

室蘭消費者協会 会長
安部 益美 氏

室蘭消費者協会 会長 安部 益美 氏

北海道消費者協会 会長
畠山 京子
(釧路消費者協会 会長)

北海道消費者協会 会長 畠山 京子(釧路消費者協会 会長)

コーディネーターのご紹介

北海道消費者協会 専務理事
武野 伸二

北海道消費者協会 専務理事 武野 伸二

パネルディスカッション動画

大会長挨拶(3分43秒)

大会長挨拶「SDGsと私たちにできること」
 今年の第58回北海道消費者大会は、残念ながら昨年に続き、ウエブ型の開催となりました。新型コロナウイルス感染拡大防止と皆様の健康を守るため、やむを得ないと判断しました。コロナ禍が早く収束し、皆様とまた顔を合わせて大会ができるようになることを心より願っております。  北海道消費者協会は今年11月30日に創立60周年を迎えます。そのため、今大会はメインテーマを「60周年記念 SDGsと私たちにできること」と致しました。2015年の国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、世界の人々の共感を得て各国で取り組みが始まっています。日本でも各界各層で「自分にできること」と言う視点で取り組みが始まっているのを感じます。  消費者協会は古くから、「消費者の権利」や「予防原則」を旨としながら「安全・安心」「省エネ・省資源」「消費者被害の防止」などの活動のほか、その時々の消費者問題に対応してきました。これらの中にはSDGsの17の目標と合致するものがいくつもありますが、多くは目標12「つくる責任 つかう責任」が示す、持続可能な生産と消費に該当します。  各国が心を合わせ、世界の課題解決に向かっている今、私たちもこれまでの活動をより深め「SDGsと私たちにできること」を考え、世界の一員として行動していきたいと思います。

SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」①(20分10秒)

SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」②(14分08秒)

SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」(10分23秒)

各協会のSDGsの取り組み(8分02秒)

今後取り組みたいSDGsの活動(11分19秒)

地域協会との意見交換①(18分54秒)

地域協会との意見交換②(19分48秒)

パネルディスカッション① 「つくる責任 つかう責任」①
武野: 大会テーマは「SDGsと私たちにできること」としました。SDGsというと、どこか目新しく、難しく、遠い世界のように感じるかもしれません。しかし、SDGsは、これまで各地の協会が取り組んできたことが数多く含まれているように思います。本日は、そんな事例をお聞きするところから始めます。先ずは消費者協会として最も力を入れるべきであろうSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」についてお聞きします。旭川消費者協会は食品ロス削減の啓発に力を入れていると聞きます。活動についてお聞かせください。

食品ロスは連携で1+1が4にも
渡邊: 環境活動部が中心となり、2018年より食品ロス問題への取り組みを始めました。まずは市民が食品ロスにどのくらい関心を持っているかを知るため、食品ロスアンケートを実施し367名から回答いただき、集約しました。並行して部員の家庭からどれくらいの生ごみが出るのかを調査し、外食時に残った料理の持ち帰りや、ご飯の量を減らしてもらう申し出に、どれらいの飲食店が応じてくれるかなどの調査を行いました。旭川市にも呼びかけ、(会食での)「食べ切りタイム」の推奨も行いました。これはコロナ禍で思うような呼びかけはなされていません。8月24日には旭川市環境部と共催で、捨てることの多い野菜を活用する献立をYouTubeで紹介する予定でしたが、こちらもコロナ禍のため足踏み状態です。
 このほか、ロスを出さない食品保存や、残った料理のリメイクなどのアイデア集を作成するためのアイデアの持ち寄りを継続しています。コロナ禍の中で、行政や企業と連携できない状態ですが、食品ロス対策は連携することで1+1が3にも4にもなると考えるので、今は情報を収集しながら活動の継続を諦めずに取り組んで行きたいと考えています。

武野: 基調講演の井出さんの話では、食品ロス削減の優先順位は、まずロスを出さないことでしたね。畠山会長の地元の釧路協会でも実際に食品ロスがどれだけ出たか調査をされたことがあると聞きました。調査によって、協会活動や消費者啓発に変化はありましたか。

「煮物は作り過ぎに注意」助言は具体的に
畠山: 釧路協会は、2015年に3カ月間、「家庭における食品ロス重量実態調査」を理事9名で行いました。その結果、野菜と調理品(惣菜)が2950g、34%と多く、調理品は2760g、32%で、この二つが上位でした。内容では野菜がトップ、中でも大根が多く5件、調理品の煮物が6件。煮物は、材料の種類が多くなるので出来上がりも多く、食べきれなくて食品ロスが起きます。
 これ以降、消費者まつりなどで「大根1本が食べ切れない時」と題し、大根料理の紹介をしたり、「煮物は材料の種類が多くなるので、出来上がりの量が多くなりますのでご注意」 といった啓発をしたりするようになりました。今年度は理事全員に調査を実施し、生じたロスを防ぐ具体的な対策を皆で考え、協会だよりで紹介することにしました。「買いすぎない。作りすぎない」といった漠然とした言葉での啓発ではなく、より共感を持って意識を高めていただけるように具体例を示す方向で動いているところです。

武野: 室蘭協会は、コロナ禍の中で、食品ロス削減活動の一つとして、フードドライブに取り組んでいるとのこと。紹介をお願いします。

心に響く「もったいないをありがとうに」
安部: 今年5月からフードドライブ運動に取り組みました。フードドライブとは主に家庭で余っている食べ物を持ち寄り、地域の福祉団体等に寄付する運動です。家で余っている食品を捨てるのではなく、必要としている人に届けるこのシステムは、世界的にはずいぶん前から気軽に行われているようです。日本では、まだまだ認知度は低いです。「ドライブ」は、「寄付」という意味。まず、運動の推進力となる会員の理解が必要と考え、理事学習会を計画しました。
 6月は室蘭市社会福祉協議会に「コロナ禍における生活困窮の現状」を聞き、7月は子供食堂の運営者から「子供食堂からみえる今」の講演会を計画しました。コロナ禍で残念ながらこちらは延期になりました。コロナ禍の生活困窮の現状は驚きでした。生活相談数は、コロナ禍以前の一年分が今の一カ月分とのこと。困窮は、想像をはるかに超えるものでした。
 同時に、市民の皆さんへの周知を考えました。ポスターを作成し、活動は新聞、FMラジオでも紹介されました。ポスター作成では運動を象徴する言葉を皆で考えました。「もったいないをありがとうに」。食品ロスを出すともったいないけれど、届けるとありがとうに変わる。これがフードドライブの魂であり心。この言葉をフードドライブの思いとして市民の皆さんに届けたいと決めました。
 新聞報道のおかげで掲載当日、早速4件、市民が「寄贈先を探していた」と届けてくれました。理事分と合わせ、社会福祉協議会に7月、8月の2回届け、今は協力者の拡大に努めています。賛助会員の企業から協力の申し出があり、社内にポスターを貼り、寄贈もしてくれました。備蓄品の入れ替え時の協力も約束いただいています。
 室蘭市には174の町内会組織があり、連合会にチラシ回覧を依頼したところ、理事会で紹介の時間をいただけることになりました。残念ながらコロナ禍で延期になりましたが、町内会への働きかけは進めて良いとの了解を得ました。これまで17町内会に回覧用のチラシを届けました。ほとんどの会長が新聞報道で知っており、快諾してくれました。心強かったのは、一番大変な継続できる集め方の検討を各会長に約束いただいたこと。支え合う地域づくりのためにも心を寄せる仕組みづくりが待たれていると実感しました。協力者を拡大しながら「ありがとう」を広げる活動をしていきたいと思っています。

武野: 「もったいないをありがとうに」は素敵な言葉だと思います。このフードドライブは目標12とともに、目標1「貧困をなくそう」にもつながります。井出さんの基調講演の中に、ごみを分別した写真があり、贈答品の高価な食品や景品が捨てられていました。もったいないし、必要とする方にお渡しできれば、とても良い活動だと思います。この活動で、室蘭協会に変化はありましたか。

安部: 食品ロスを真剣に考えるようになったこと。今までは、うっかり消費期限が切れたレトルト食品を廃棄していました。今は、備蓄食品の点検をまめにしています。買い物に行っても、すぐ食べるのであれば手前から取り、割引品も胸を張って購入します。一番はこの行動の変化が出始めていることでしょうか。

武野: 素敵な反応が始まっているということですね。

パネルディスカッション② 「つくる責任 つかう責任」②
武野: ご存知のとおり、SDGsは17の目標のみが掲げられ、細かい実施ルールは決まっていません。それだけに目標達成に賛同するさまざまなステークホルダー、つまり関係する人々が必要に応じて連携をとりながら、それぞれのやり方で行動していく。そうした進め方自体を目標としているのが目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」です。旭川や室蘭の活動を聞けば、食品ロスは切り口が違ってもいろいろな団体との連携が可能だと思いました。釧路協会も長年、フードドライブを実施してきました。畠山会長、食品ロス削減の活動を道内の消費者協会が行うメリットはなんだと思いますか。

余剰食品を出したい人と求める人を橋渡し
畠山: メリットは、それまで付き合いの薄かった団体、機関、個人との連携が持てることでしょうか。釧路協会が始めた2014年度は、SDGsも食品ロス削減推進法もなかったころ。まだ食べられるのに捨てられる食品が日本で500〜800万トンもあることを知り、「食料自給率が低いのにとんでもない。食料が消費者に届くまでには大量のエネルギーが使われ、CO2も発生するのに、すべてむだになる」と考え、食品ロス削減に取り組み、フードドライブを思いつきました。
 集まった食品は主に生活相談支援センターへ届けます。橋渡しは社会福祉事務所です。平成28年度は2回、先ず試しにということで、呼びかけは会員向けに協会だよりに掲載したのみ。取扱量は23.5キロ、実施後に余裕があることが分かり、翌年は51.2キロ、お届け回数も増えました。市職員にも呼び掛けました。翌年も増え、報道されたことで一般市民にも広がりました。令和元年は107.5キロ。災害備蓄の入れ替え食品を届けてくれる企業など問い合わせを多くいただくようになりました。世間には余剰食品を供出したい人、余剰食品を求める人が共存していることがよく分かりました。橋渡しを協会ができることに喜びを感じます。この活動により協会の社会性が高まったように感じます。
 どの自治体もごみ処理費用の負担は大きく、それなのに生ごみの中には手つかずの食品が結構入っているとのことです。この問題にも貢献するのでは。フードドライブは、フードバンクと違い、小規模でできます。消費者協会の力で十分にできます。釧路では協会事務所の入口に段ボールに化粧紙を貼った受付箱を置いています。置く場所があり、それを管理できれば、どの協会でもできます。SDGsは先進国と途上国との格差・不平等の解消を目指し、途上国を救う意味合いを持っていますが、日本も子供の貧困が7人に1人と言われています。協会の食品ロス削減運動が横の連携により、福祉分野にも貢献できることは意義あることと考えます。

武野: ただいま「橋渡し」、先ほどは「連携」という言葉がでました。外部とのつながりを広げていけるのがこの活動の大きな特徴と言えます。食品ロス以外でも目標12「つくる責任 つかう責任」に関わる実践があります。繊維リサイクルの活動に力を入れている岩内協会の活動をお聞きします。

毎日、大型トラック130台の衣服がごみに
佐藤(岩内): 当協会は平成17年、ごみの有料化に伴い、ごみの減量化とリサイクルの推進、分別の公平化を考え、繊維リサイクルつまり衣料の回収を始めました。着なくなった衣料をウエスにして役立て、少しでもごみを減らすことを一緒に考えましょうとチラシを作り、回収できるもの、できないものを示し、回収バッグの設置場所に置いて啓発してきました。
 回収バッグは幼稚園2カ所、保育所3カ所、働く婦人の家の計6カ所に置き、いっぱいになったら回収します。個人宅に取りに行く場合もあります。回収した古衣料は整理して袋に詰め、1袋30キロにして回収業者に送ります。毎年約50袋になり、他にぬいぐるみ、靴、バッグ等の雑貨類や毛布も送ります。回収金額は古衣料1キロ1円、タオル類は1キロ20円、毛布は1枚10円となっています。毎年、約5000〜6000円の収入になり、子どもたちに役立つ物に利用してもらうよう積み立てをしています。
 環境省は今年、ファッション産業がいかに環境に負荷をかけているかを調査した2020年の結果を発表しました。1年間に国内の家庭や事業所から不要になって手放された衣服は78万7000トン、うち65%の51万トンはリサイクルや再利用されず、そのまま廃棄されているそうです。換算すると毎日、大型トラック130台分もの衣服が、ごみとして捨てられています。国内では、原材料を調達し製造する過程で年間9000万トンの二酸化炭素が排出され、原材料の栽培や染色などに1年間で東京ドーム6700杯分、84億立方メートルの水が使われる推計です。廃棄される衣服の97%は家庭から出たと推計され、環境への負荷を減らすには、使い終わった衣類をいかにリサイクルや再利用に回すことができるかがカギになります。

武野: 身近な実践が全国、全世界につながる活動であることが分かる事例ですね。一着をできるだけ長く着ること。服を服として再利用し続けることが最も環境に優しく、経済的です。バザーやフリーマーケットアプリ等を利用することも良いでしょう。平成19年に岩内協会は3R(スリーアール)で表彰されたとのことですね。

佐藤(岩内): 繊維リサイクルの3Rは、①リデュース(建材、ぬいぐるみの綿、自動車の中敷き②リュース(中古衣料、輸出、フリーマーケット)③リサイクル(ウエスの原料など)です。ウエスは、工場で使用する機械の整備、家具磨きの仕上げ、自動車整備の油等の拭き取りなどに使われます。空港や整備工場で、オフィス、ビル清掃で、船舶、漁船、タンカーで、ペンキ、塗装店、各種工場、ガソリンスタンドでも使用されています。繊維リサイクルの中から再利用できる物を利用し、春と秋にフリーマーケットを行い、大変好評をいただいています。現在、コロナ禍で開催できず、皆さんから残念がられています。

武野: 市場に再流通する衣服の量は、私たちが手放す衣服全体の2割程度とか。もっと活用したいですね。

パネルディスカッション③ 「質の高い教育をみんなに」
武野: SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」で函館協会に報告をお願いします。

賢い消費者・生活者を目指し知見高める
佐藤(函館): 当協会の大きな事業の一つに、4年制の教養講座を内容とした消費者大学があります。市民の知見を高めるため継続して学習を行っています。消費者自らが生涯にわたり必要な知見を高め、「賢い消費者・賢い生活者」を目指して学習する消費者教育の場として、安全で安心できる消費生活の確保や消費者利益の擁護につなげることを目的とし、2012年に設立しました。現在、5期まで卒業生を出しています。
 各学年で年間10講座を開設し、くらしに関する法律、経済、文化など生活に必要な知識や情報を学びます。1回90分。7単位以上で進級できます。受講無料ですが、資料代や保険料で一般2500円、会員1000円。講師は、大学教授や司法書士、社会福祉士などいろんな人にお願いしています。メリットは知見を高めるとともに、消費者運動への理解を高め、見守りの一員として活動してもらうことです。

武野: 今、世の中は情報通信技術が普及し、コロナ禍により、さらに加速しています。一方、平均寿命が延びて働く期間が長くなる中、学校教育だけでは技術の進展に追いつけず、学び直しの「リカレント教育」が求められています。そういう意味でも生涯教育は重要です。釧路協会も消費者大学を開催していますね。消費者大学を地域協会が行う意義について報告ください。

幅広い社会問題を消費者の視点で検証
畠山: 釧路の消費者大学を紹介します。多くの地域で生涯教育として連続講座が開かれていると思いますが、消費者教育と言う分野は特殊性があり、知識プラス「消費者としての視点」も養わなければなりません。それは消費者協会でなければできないのではないかと思うのです。社会に起きる問題について消費者の視点でそれを検証する必要があります。消費者の権利、予防原則の視点です。それに知識を加え、消費者力を養います。消費者大学を通し、消費者力の養成をしたいと思っています。
 講座は10講座、原則として全講座が受講可能な人が対象で年齢は不問、聴講生も可。受講料は資料代2000円、会員は1000円。新しい方が入れば、その場で協会会員になっていただけるケースが多いです。2年間の修了時には修了証書を発行します。バス研修も行い、有機農家や鶏の平飼いをしている養鶏場、製紙工場などを見学します。
 役場の職員に講師をお願いすると地元の情報がよく分かります。すぐ地域で役立つ消費者問題の知識や、消費者ができることを学べます。それが地域協会の開催メリットだと思います。道協会も講座はたくさんやっていますが、地域からはやや遠く、それを補う意義があると思います。社会のデジタル化が急速に進み、テレビや新聞を見ない世代が増えています。正しい消費者情報を伝達していく必要が今まで以上に求められるのではないでしょうか。

武野: 道協会が主催するリーダー養成講座も今年はコロナ禍のため全てリモート型になりました。結果的に、遠隔地からも交通費や宿泊費をかけず参加でき、今後はこういう形式が普及していくのだろうと思います

パネルディスカッション④ 「各協会のSDGsの取り組み」
武野: SDGsは行政も企業も団体も市民も国も全ての人類が目指す世界の姿と言えます。言い換えれば、子どもも学生もサラリーマンも高齢者も同じ思いを持つべき人類共通のゴールです。ですからSDGsを前面に運動することは、やがて親しみやすく、みんなで取り組みたくなる活動になるでしょう。SDGsを組織活動の強化・拡大の旗印につなげていきたいものです。そんな大がかりなことはできないと思われるかもしれませんが、これまでの各協会の取り組みにはSDGsに適う活動がたくさん含まれています。室蘭協会はいかがでしょうか。

SDGsに適う消費者協会の活動
安部: 「くらしの講座〜エコな小物つくり」を平成22年から現在まで11年間開催してきました。年に10回開いた年もあります。内容はリサイクルを目標に捨てる端切れを活用してブローチ、コースター、スリッパ、小物入れのポーチなどをつくります。小さな布がかたちになっていく手仕事の楽しみも重なり好評で持続できました。廃油せっけん作りは、家庭から出る食用油を捨てずに集めて活用し、汚れの落ちが良く評判です。

武野: SDGsの目標12と目標14にもつながりますね。旭川協会はいかがでしょう。

渡邊: 旭川協会ではノーレジ袋・マイバッグ持参運動をいち早く開始し、行政・事業者団体と連携して取り組みを成功させています。現在では、ほとんどの市民が買い物にはマイバックを持参するようになり、プラスチックゴミ削減と、市民の環境への意識づけにつながっていると自負しています。

武野: 7月1日でレジ袋有料化から1年が経ちました。実は、レジ袋有料化には多くの例外が認められています。その一つは、生物由来のバイオマス素材が25%以上であれば無償配布して良いこと。しかしバイオマス100%でなければ、石油由来の素材を混ぜて使うことになります。今、世界で最も深刻な問題は、地球にたまり続けるプラスチックゴミです。SDGsは、目標14「海の豊かさを守ろう」の指標 14.1 に「2025 年までに、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」ことを掲げています。マイバッグ運動やマイボトル運動とともに、私たちは身のまわりの製品一つひとつに関心を持ち、利便性をどこまで享受してよいのか、プラスチックの機能が必要な物は何か、そうした視点から製品を購入し、高い意識を持った消費者になりたいですね。函館協会はいかがでしょうか。

佐藤(函館): 函館協会は、化石燃料や原子力発電に依存することなく、クリーンエネルギーの利用拡大を提起し、青森県大間原発建設反対を貫いてきました。津軽海峡の水温上昇を危惧し、今もイカが獲れずに困っています。さらに事故が発生した場合、市民は避難する場所がありません。そういった危険性を主張しクリーンな地域を目指しています。この運動は目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」につながります。
 住み慣れた地域に安心して住み続けることを多くの人は当たり前と考えます。しかし罪を犯す人が多くいるのも事実です。そのような被害に遭わないようにと、消費者大学を開設し、地域見守りの人材を養成してきました。行政・警察・司法・地域代表等で構成する函館市地域見守り消費者支援連絡会を創設し、情報交換や啓発活動を行い、安心して地域に住み続けられるよう活動してきました。これはSDGsの目標11「住み続けられる街づくりを」につながります。
 人種や国家間の不平等は数限りなくありますが、われわれの地域においても差別や偏見は多数あります。民族的な差別、障がいに関わる差別のほか、SDGsの目標5にある「ジェンダー平等を実現しよう」もあります。そのような差別がないよう、当協会の理事に障がい者団体代表、障がい者施設理事長、民生委員連合会役員などさまざまな方が参加し、意見を取り入れ活動を進めているところです。

武野: SDGsに取り組むことで自らも変わっていくという話をうかがいました。さらに消費者運動として進める地域消費者被害防止ネットワークの活動も住み続けられるまちづくりにつながっていくとのお話でした。皆さんのお話を聞くと、それなら自分たちの協会も活動してきたと思う協会があるのではないでしょうか。つまり、SDGはどこか遠くて難しい問題ではなく、実は私たち自身がすでに取り組んでいることが数多く含まれているように思います。

パネルディスカッション⑤ 「今後取り組みたいSDGsの活動」
武野: 最後に、パネリストの皆さんに一言ずつ、今後取り組みたい活動や他協会が参考になるような助言をお願いします。岩内協会はいかがでしょう。

問われる一人ひとりの温暖化対策
佐藤(岩内): 日本の衣類のリサイクル率は11%と低く、およそ7割が燃えるごみとして処理されています。衣類も貴重な資源です。最近では、衣類を修理したり、リサイクルに取り組んだりする企業が増えています。繊維リサイクルは、ただ捨てるのではなく、「もったいない」を合言葉に行政との連携を図り、集める場所と回収バッグの設置場所があればすぐできます。ごみの減量化に向けて会員を中心に意識の啓発活動を進めることが大事だと思います。ぜひ1カ所でも増えることを望みます。

武野: 続けて旭川協会にお願いします。

渡邊: 当協会の食の安全活動部は、今年度より農薬を使用しない野菜づくりを始めました。農業未経験の会員が自分たちの手で野菜をつくり、その楽しさと大変さを知ることができました。今年は少雨と猛暑によりジャガイモの収穫が減少傾向ですが、協会が借りた畑はできが良く、たくさんのジャガイモを収穫できました。10月に開く消費生活展の地産地消コーナーで販売します。どの協会も会員の高齢化による会員数の減少が課題です。また、環境問題や気候変動が大変な状況ですが、多少なりとも今、自分たちで取り組める活動を進め、行政や事業者などと協力することで、次世代にバトンタッチできる活動につなげていけるのでは、と考えています。

武野: 食は命の源です。食の安全・安心はとても大事であり、そこから始まっていくというお話ですね。農水省によれば、持続可能な農業システムは持続可能な食料生産を促進します。化学肥料・化学農薬の使用削減は、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」や、目標6「安全な水とトイレを世界中に」に関わります。日本の場合、安全なトイレは当たり前に思えますが、水質汚染は日本でも世界でも大きな問題です。化学物質の水路への流出を防ぐことは、人への影響だけでなく、生態系の維持や生物多様性に貢献できます。行政や事業者など、さまざまなステークホルダー(利害関係者)と連携し行動することは、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」そのものです。室蘭協会はいかがでしょうか。

安部: 取り組むべき社会課題としては、気候変動への具体的な対策が、いま喫緊だと思います。先ずは削減への取り組みです。例えば、市民アンケートで私がどう温室効果ガスを削減するのか、私の削減の目標は、というようなアンケートを行いたい。プラスチックフリー生活への提案も考えていければと思います。

武野: 確かに気候変動は、待ったなしの課題です。さまざまなところにすでに影響が出てきています。続いて函館協会にお願いします。

佐藤(函館): 函館協会は、令和3年度総会で、主要活動目標にSDGsを提案し、承認されました。そのことによって、今までの活動や今後の活動にSDGsの趣旨を明確にしながら、持続可能な活動を行うことができます。多くの協会がSDGsの目標を自身の協会の活動目標として取り組むことが望まれます。

武野: 基調講演の蟹江さんも話していましたが、SDGsは、まず「未来のあるべき姿」を描き、その姿を実現するには、今何を行うべきか、未来に向けてどう進んでいくかを考えます。つまり現実から始まるのではなく、未来に向かって何をすべきか、という革新的な取り組みをするにはよい手法です。しかし、われわれ消費者協会はすでに実質的にSDGsに取り組んできている強みがあります。畠山会長はどう思われますか。

削減の数値目標を意識して活動も
畠山: SDGsには17の目標の行動計画のほとんどに「2030年までに〇〇する」と具体的に掲げています。一方、私たち消費者団体は企業のように利益を追求する団体ではなく、政治家のように法律をつくる役割もなく、ただ純粋に持続可能な社会をつくるために活動しています。通常は、いつまでにどうするという目標はつくりません。しかし、今は気候変動など喫緊の課題があり、取り組みは急ぎます。しかもそれらの課題解決に世界各国が動いているので、取り組みを進めるには非常に良い環境です。具体的な目標を定めて活動をするのが良いかもしれません。
 北海道では「食品ロス削減推進計画」で、削減の数値目標を立て、2017年度を基準として2030年度までに20%削減を掲げています。家庭系ロスで言うと11万トンを9万トンに減らそうという目標です。私たちはこのように数値目標を定めて活動することはないと思いますが、これを意識しながら活動すると食品ロス削減という目標が、より具体的にイメージされ、活動にメリハリがつくのではないでしょうか。
 消費者協会には課題解決のため、生産者・事業者・流通業者・行政など各界各層に呼びかけ、「協議会」といったものをつくり、課題を解決する話し合いの場をつくる力があります。「レジ袋削減・マイバック持参運動」などがそう言えます。これからも横の連携を大事にしながら、持続可能な消費生活社会を築いていきましょう。

武野: 気候変動の話が出ました。2050年にカーボンニュートラル、脱炭素社会を実現する、と国も道も表明しています。2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする、その過程で北海道では2030年には2013年比で35%削減する大胆な挑戦となります。非常に大きな目標であり、国や自治体の主導と思われがちですが、私たち消費者は無関係ではなく、むしろ当事者です。北海道は冬の暖房に灯油を多く使うので、北海道全体の温室効果ガス排出割合は家庭部門が4分の1を占めます。しかし、暖房用の灯油を減らすと言っても命に係わる節約はできません。家の改築・新築、電動自動車やスマート家電への切り替え、そういったことで家庭部門の排出量を減らすことはできます。消費者自身が理解し行動を変えていくことが必要です。
 本日は「SDGsと私たちにできること」を話し合ってきました。食品ロスの削減や衣類のリサイクル、レジ袋やペットボトルの削減など家庭でできることはたくさんあり、私たちはすでに多くの課題に取り組んでいます。SDGsに関しては自負を持って、行動変容の輪を広げていけば、地球温暖化防止にも、災害に強い強靭な地域づくりにもつながっていくと思います。

パネルディスカッション⑥ 地域協会との意見交換①
武野: 次は、他の協会の皆さんにも意見や質問をお聞きします。

一つのレトルトカレーが大きな貢献に
北広島: フードドライブに関する会員アンケートを行ったところ、協力できる45%、できない10%、どちらとも言えない45%でした。そもそも食材が余らないとのこと。7月のセミナーで畠山会長にリモート講演してもらい、食品ロスへの意識を高めてもらいました。市内の関係団体で構成するエコ・パートナーシップ北広島は毎年、「環境ひろば」を開催し、そこでエコレシピを募集し、地産地消コンテストを実施しています。SDGsは協会の活動目標にも盛り込んでおり、今後も勉強したいと思っています。

江別: 北広島のセミナーなどに参加し、フードドライブの勉強を重ねています。食品回収ボックスを事務局内に置きましたが、まだ浸透していないよう。ずっと使用済み割りばしの回収をしてきましたが、王子製紙がやめるので、新たな運動としてフードドライブを模索しています。市内には子ども食堂が12カ所あり、見学もしました。市社協も見学してきました。協会は、えべつ地球温暖化対策地域協議会に参加し、11月7日開催の「えべつ環境広場」にも参加します。こうしてみるとマイバッグ運動など消費者協会はずっとSDGsに携わってきたことを実感しています。

美唄: 中空知は広域ごみ処理のため、ごみは埋め立て処分をし、美唄だけは生ごみを堆肥化してきました。これまで協会として食品ロスのアンケートや講演会を行ってきましたが、ややマンネリ化していました。フードドライブは、市社協も前向きで一緒に準備をしています。食品をもらいたいという声は介護・福祉施設からあがっています。会員は高齢者が多く、断捨離で机やスキーの話もありますが、まずは食品だけで進めたい。

中札内: 村内では就労支援施設が食品残さを堆肥化し、村民に還元しています。社協が6月からフードバンクを始めたので、フードポストに寄付する形で協力したい。集めた食品は、社協や民生委員が配布します。11月に収穫感謝祭があり、不用品バザーをやっています。昨年、今年はできていませんが、出品者からわずかな手数料をもらい、残りの売り上げは提供者に渡しています。

富良野: 2、3年前から「もったいないを考え直そう」という活動に取り組んできました。家庭の食品を「フードバンク富良野」に寄付すると、子ども食堂に渡るので、会員から募って寄付しています。

パネルディスカッション⑦ 地域協会との意見交換②
幕別: 食品ロスの削減は、頭の中で固く考えていましたが、本日の討論は参考になりました。古衣料の回収や廃天ぷら油の回収を行っているので、その取り組みの展示などを通じ学習の機会を設けたい。中札内の堆肥化も参考になりました。

武野: コロナ禍により、生活に困る人が増えています。食を求める人も多く、支援できる協会は取り組みを考えていただきたい。

弟子屈: コロナ禍で、まだ手が回らない状況だが、とても参考になりました。

浦河: 生活展などで地産地消、衣類のフリマをやっています。フードドライブの話を聞いて何かやった方がいいかと考えています。生活展はパネル展示のほか、マスク、布バッグなど作ったものも展示しています。

美唄: フードバンクやフードドライブに特化した他の協会の取り組みをニュースにして知らせてもらいたい。

千歳: コロナ禍で動きにくいが、フードバンクも内部で検討してみました。期限のあるものを扱うのは難しい。まずは食品ロスを出さない取り組みを進めたい。

旭川: フードバンクは一時実施しましたが定着せず、今は停止している状況です。

畠山: 食品ロス削減では、消費者庁は買い物での手前取りを推奨しています。協会としてもそれを推奨してはどうでしょう。

室蘭: 余る食品がないというのは、あると思う。一つは現実を知ることが大事で学習会をやり、意識を変えることが大事でしょう。一つのレトルトカレー(の提供)が大きな貢献になると。食品ロスは家庭で半分、企業・小売店で半分なので、手前取り運動と合わせ、双方から取り組むことができる。小売店への聴き取り調査をやりたいと思っています。

武野: 広い範囲で小売店調査を行うのは、面白いかもしれませんね。長時間ありがとうございました。本日の意見交換が、今後の協会活動や組織拡大の取り組みの参考になれば幸いです。

6.大会宣言

大会宣言(4分06秒)

 今年の大会テーマは「SDGsと私たちにできること」でした。討論では多くの実践例が報告されました。日本では、まだ食べられるのに廃棄される食品が年間600万トンに達します。こうした食品は生産、流通、廃棄にも多くのエネルギーを要し、食品ロス削減のためのフードドライブが紹介されました。

 衣服も国内で年間79万トンが不要となり、その65%が廃棄されるのに、大半は家庭から出される現状を知りました。大会で紹介された食品ロス削減や衣類リサイクル運動は、SDGsの「つくる責任 つかう責任」につながります。消費者協会の取り組みはSDGsと重なっており、自負を持って活動を深めましょう。

 北海道消費者協会は創立60周年を迎えました。高度な情報通信社会となり、消費者問題は複雑化し、課題は地球規模に広がっています。だからこそ60周年キャッチコピー「紡ぐ つなぐ わくわく 未来」に掲げたように、さまざまな取り組みを紡ぎ、多くの人々とつながり、明るい未来を築きたいものです。

 コロナ禍は、終息が見通せません。本大会も2年続けてウエブ型となりました。来年の大会は、皆さんと実際に顔を合わせる復活の大会となることを願います。しかし、消費者問題は待ったなしです。「withコロナ」の中で、どう地域の活動を続けるか、本大会での報告も参考に粘り強く工夫していきましょう。

 2050年の脱炭素社会への挑戦が始まっています。今一度、省エネを徹底し地球にやさしい消費者を目指さなければなりません。ゲノム食品の流通や核のごみ最終処分場問題も予断を許しません。安全・安心で、持続可能な社会を目指すため、仲間を増やし、消費者の声を一層強めていきましょう。
2021年9月17日 第58回北海道消費者大会 

7.協賛団体名

協賛団体名

  • 一般社団法人 日本損害保険協会 北海道支部

協賛広告団体名

  • 一般社団法人 生命保険協会 札幌協会
  • 北海道米販売拡大委員会
  • 公益社団法人 北海道宅地建物取引業協会
  • コアレックス道栄株式会社
  • 北海道水産物加工協同組合連合会
  • 北海道農業協同組合中央会
  • 北海道生活協同組合連合会
  • 日本チェーンストア協会 北海道支部
  • 日本ハム・ソーセージ工業協同組合 北海道支部
  • 一般社団法人 北海道LPガス協会
  • 北海道牛乳普及協会
  • 北海道生活衛生同業組合連合会
  • 北海道地区新聞公正取引協議会
  • 北海道中古自動車販売協会
  • 北海道電機商業組合
  • 一般社団法人 北海道乳業協会
  • 一般社団法人 北海道養豚生産者協会
  • よつ葉乳業株式会社
  • 石油連盟 北海道石油システムセンター

8.後援

  • 北海道